クスノキのはなし

福岡城の日々

鴻臚館跡展示館前にある2本のクスノキ。入口で大きく枝を広げる様子は、来館者を歓迎しているかのようです。この大きな枝と生い茂る葉で、暑い時期には涼しい木陰を作りだしてくれます。

                          ※右端の木はナンキンハゼ

クスノキは1年を通して葉をつける常緑樹ですが、葉の寿命は1年で、春になると古い葉が赤くなり落葉します。この時期の落葉の量は半端なく、朝一番に樹下をきれいに掃除しても、昼前には落葉の絨毯が広がっています。さらに風の強い日には、掃くそばから葉が舞い落ち、まるでクスノキにからかわれているような気分に_| ̄|○

落葉が一段落すると、初夏は花のシーズン。クスノキに花?と思われる方も多いと思いますが、生い茂った葉の間が白っぽく、近寄ってよく見ると、可愛らしい小さな花が咲いているのが分かります。

  

この小さな花が変色して地面に落ちると、あたり一面茶色に。その後さらに、花がついていた細い枝が大量に落ち、この枝もとても掃きづらい・・・とクスノキの落とし物への愚痴は尽きないのですが、このクスノキ掃除はつらいだけではなく、実は密かな楽しみも。

地面をせっせと掃いていると、あたりにふわりとした心地よい香りが漂います。薄荷(はっか)のような、清涼感のあるスッキリとした香り。私にとっては掃除の大変さを一時的に忘れさせ、心身をリフレッシュさせてくれる効能があります。

この香りは一体何なのか。
その正体は、「樟脳(しょうのう)」。樟脳はクスノキの幹、根、葉を蒸留、精製して作られる結晶で、主に防虫剤として使用され、昔はタンスを開けるとこの香りがしたということで思い出される方もいらっしゃるかもしれません。防虫剤の他にも、香料や医薬品、セルロイドの原料など多用途に使用されてきました。クスノキの名前の由来は、香りから「臭(くす)し木」、また薬品としての利用から「薬の木」という説もあるようです。

このクスノキから採取される樟脳ですが、なんと明治維新への原動力ともなったようです。
江戸時代、日本から輸出される貿易品は金・銀・銅の他、樟脳も大きな位置を占めていました。この樟脳貿易で莫大な利益を上げた薩摩藩や土佐藩は、樟脳で得た財で軍艦や武器を購入し、倒幕への力をつけていったと言われています。そして約260年続いた江戸幕府は終わり、時代は明治へ。樟脳がなければ、歴史は今とは違ったものになっていたかもしれず、クスノキは新時代を作るのに重要な役割を担ったと言えるのかもしれません。

江戸時代までは、福岡が生育北限だったらしいクスノキ。
わが福岡藩でも、クスノキは貴重な木として、藩による管理や保護が積極的にされていたようです。クスノキの原生林がある立花山は、藩の管理下に置かれ、この場所のクスノキは現在、特別天然記念物に指定されています。
また、昭和54年には、クスノキは一般公募で福岡市の「広場の木」として選ばれるなど、福岡市民の間では身近で愛される木となっています。

福岡城内には、クスノキ以外にも数多くの樹木があります。その数、106種、約4,000本(中高木)。どんな木があるのか、散策ついでに探しに来られませんか?
また、過去のブログには江戸時代から現在までの福岡城内の木々についての記事もあります。そちらもどうぞご一読ください。ブログはこちら。「福岡城の木々」

現在、下之橋では紫陽花がきれいに色づいており、写真を撮る多くの人で賑わっています。
福岡城跡へお越しの際は、「福岡城むかし探訪館」、「鴻臚館跡展示館」、「三の丸スクエア」にもぜひお立ち寄りください。
スタッフ一同、お待ちしております。

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